代替現実(SR)とは?代替現実のシステムやVR/AR/MR/xRとの違いや活用事例を解説

代替現実、SRについて解説するページのタイトル画像です

代替現実(SR)とは何なのでしょうか?
聞きなれない言葉かもしれませんが、SFや映画の世界では、よく使用されてきたテーマですので、内容的には知っているという方も多いと思われます。

有名な映画では、「マトリックス」や「インセプション」、「トータルリコール」などのテーマとして使用されていました。人類が知らない間に仮想世界で暮らしていて、実はリアルな現実世界はほかにあったといった内容です。

今回はそんな代替現実(SR)をテーマに、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)、xRとの違いを含め、活用事例とともに解説します。

目次

xRとは?

xR とは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の先端技術の総称です。
xRの進化によって、人がいままで過ごしてきたリアルな現実世界とxRによるバーチャル世界がミックスされた新たな世界が登場するといわれています。

人は、xRによるバーチャル世界によって、現実世界で限定されていた時間や空間などから解放されることになります。
たとえば、現実世界では、なかなか目にする機会がないアフリカの動物や深海にすむ生物なども3D画像で目の前にいるような体験ができます。
また、アバターを介して、自分とは違う別の人物としてバーチャル世界に存在することも可能になります。

すでに、テーマパークのアトラクションやイベントなどでxRによるバーチャル世界を体験した経験がある方も多いと思います。
現在もさまざまな取り組みでxRが取り入れられています。
たとえば、以下の取組みが実施されています。

  • 部屋の模様替えやリフォームをする際の家具のイメージなどをバーチャルで体験できるショールーム体験
  • xRによって映画に登場した場面の中に自分がいるような体験ができるミュージアム
  • 現実とバーチャルをミックスしたxRによるミニゲームなどを2人で体験することによって出会いの可能性を高めるxRによる婚活イベント

今後は、アトラクションやイベントなどの限られた場面ではなく、スマートフォンやモバイルが浸透したように、日常生活の一部としてxRを活用する日が近づいているかもしれません。

それでは次にxRを実現する要素(技術)であるVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)について解説していきましょう。

VR(仮想現実)

VRとは、「Virtual Reality(バーチャルリアリティ)」の頭文字をとった略語です。
バーチャルリアリティとか仮想現実といった言葉はすでに一般的に浸透していますので馴染みもあるでしょう。

現段階では人がVRの世界を体験するのは「VRゴーグル」を装着します。
VRゴーグルをつけると、視界が覆われるので、VRに没頭できます。
テレビ番組などでタレントがVRゴーグルを装着した時のリアクションを見た方も多いと思いますが、VRの世界はリアルな現実世界と同じような感覚を得られます。

VRの進化は、距離が離れていても、距離を感じさせない状況をつくりだせるため、現在すでにさまざまな場面で活用がすすんでいます。たとえば以下のケースがあります。

  • 教育現場や趣味・スポーツ教室などで、実際に教師がレクチャーする教室に足を運ばなくても、自宅やサテライト教室で、目の前に教師がいるような感覚でレクチャーを受けられる
  • 遠隔地の医療で、VRを活用して、医師と患者がお互いに目の前にいるような感覚で診察や治療をおこなう

AR(拡張現実)

ARとは、「Augmented Reality」の頭文字をとった略語で、日本語では「拡張現実」と呼ばれています。
バーチャルリアリティと比べると言葉としては一般的にはあまり使われていませんが、ARはすで日常生活のさまざまな場面で活用されています。

代表的な例が大流行したスマフォゲームアプリ「ポケモンGO」です。
ARとは、リアルな現実世界の画像にバーチャルの画像を重ね、現実とバーチャルの垣根をなくす感覚を与える技術です。

MR(混合現実)

MRとは、「Mixed Reality」の頭文字をとった略語で、日本語では「混合現実」と呼ばれています。
MR は、AR(拡張現実)をさらに進化させて、よりリアリティを高めた技術です。

たとえば、ARでは、現実のリアルな風景にバーチャルのキャラクターなどを重ねて、あたかもそこにいるような感覚を味わえますが、自分がキャラクターに近づいたり、キャラクターの後ろにはまわり込めませんでした。

MRは、リアルな現実とバーチャルそれぞれの位置情報を算出することで、ARではできなかった、キャラクターに近づいたり、キャラクターの後ろに回り込めるようになり、よりリアルに近い感覚を可能にします。

さらに、MR空間は、複数の人が共有できるため、コミュニケーションツールとしての可能性も高めました。
MRによって、よりリアルな現実世界とバーチャル世界の隔たりがなくなったといえます。

それでは、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の解説を終えたうえで本題のSR(代替現実)の解説に入りたいと思います。

SR(代替現実)とは?

SR(代替現実)とは、「Substitutional Reality 」の頭文字をとった略語で、日本語では「代替現実」と呼ばれています。

SR(代替現実)は、技術的にはVR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の先にあるものですが、考え方は異なります。

SR(代替現実)では、事前に編集した映像をこれから起こる現実として体験させます。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を体験する場合人は、前提としてリアルな現実ではなくバーチャルな非現実であることを認識しています。一方SRを体験する場合、人は現実か非現実か判別がつきません。

ここではSR(代替現実)について「独立行政法人 理化学研究所」の研究チームの研究をもとに解説しましょう。

理化学研究所の研究

理化学研究所では、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の先端技術や、それらを統合したxRの最先端の技術を活用して、事前に作成したxRのバーチャルな世界をリアルな現実の世界と差し替えて、現実に起こっている事として体験させるSRシステムを開発しました。

SRシステムを開発でメタ認知を究明する

ヒトが現実を認識するのは脳であることはわかっています。
脳はヒトがリアルな現実世界として五感を通して感じているリアルタイムの出来事を「現実」と認識しています。
この脳が認識している現実とつじつまが合わない事があると、現実ではない事として強制的に解釈します。

一方で、寝ている間に見る夢の中では、つじつまが合わない事が起きても脳は現実であることとして認識を続けています。

目が覚めている間に脳が、五感を通して感じているリアルタイムの出来事を現実と認識する仕組みや現実ではない事として強制的に解釈するときには、「メタ認知」という高度認知機能が働きます。

VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)の体験では、体験者は初めから体験は仮想の出来事だと知っていますので、「メタ認知」などの高度認知機能は働きません。
現実か非現実か判別がつかないSR(代替現実)において「メタ認知」などの高度認知機能が働くことになるのです。

「メタ認知」についてはわからないことが多く、SRシステムによってその究明の伸展が期待されています。

SRシステムの実験方法

実験の様子を収めた動画です。

脳がリアルタイムの出来事を現実と認識したり、認識している現実とつじつまが合わない現象が起こると「これは現実ではない」と判断する「メタ認知」などの高度認知機能を調べるために、理化学研究所では以下のような手順で体験をすすめています。

  1. まず初めに、被験者が部屋に入ってくる動画を被験者には知らせないでカメラで撮影します。
  2. SRシステムでは、被験者はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を頭に着け、視界を遮断し、視覚はヘッドマウントディスプレイ(HMD)を通した映像のみを感じ取るようにします。また、ヘッドフォンを着けて、聴覚もヘッドフォンからの音のみを感じ取りようにします。
  3. 被験者には、リアルタイムの現実の映像と音声が初めに流れてきます。これらのデータに対し、被験者の脳は現在感じ取っているデータは現実のリアルタイムで起こっている事なので、現実であることを強く認識します。
  4. 次に被験者がいる場所で事前に撮影した過去の映像に切り替えます。この時点では、被験者は作られた映像を現在の映像と認識しており、現実か非現実かの判別ができていません。たとえば、作られた映像上の人物が話しかけてきた場合、現実にはそこにはその人物が存在していないのに、被験者は会話を始めます。
  5. はじめに撮影した被験者が部屋に入ってくるシーンの映像をヘッドマウントディスプレー(HMD)に流します。目の前に自分自身が現れたことで、脳は、現実とつじつまが合わないため現実ではないとして強制的に解釈します。
  6. 事前に撮影した過去の映像では、被験者が部屋に入ってくるシーンを撮影して流したことを担当者が説明する映像を撮ってあり、この映像を被験者に流すことで、被験者は作られた映像を現在の映像と認識し、現実か非現実かの判別ができなくなります。
  7. このような体験を繰り返すうちに被験者は目の前の光景がリアルな現実なのか、作られた過去の映像かどうかの判別が困難になります。目の前の担当者が実際に自分の目の前に存在するかどうかもわからなくなるケースもあります。

活用事例・可能性

SR(代替現実)の活用はこれから将来に向けて大きな期待が寄せられている分野です。
「マトリックス」や「インセプション」、「トータルリコール」などの映画のなかの世界であった、事前に用意しておいた過去の映像を使って、現実のシーンをこっそりと差し替えるSR(代替現実)が実現すれば、新たな可能性が広がります。

ヒトのメタ認知の仕組みを研究

理化学研究所が研究しているSR(代替現実)システムは、脳がリアルタイムの出来事を現実と認識したり、認識している現実とつじつまが合わない事があると判断する「メタ認知」などの高度認知機能の研究に活用されています。

具体的には、SR(代替現実)システムの体験によって、脳機能、心理状態、心拍などの生理状態がどのように変化するかを調査・分析し、ヒトのメタ認知の仕組みを研究しています。

また、SR(代替現実)の環境では、体験者に実際にはありえない世界を現実世界と脳に認識させた状態で体験させる事も可能です。

たとえば、作成した映像のスピードを現実の時間より速いスピードや遅いスピードで再生したり、実行した事がすべて成功するSR(代替現実)を体験させたときにヒトがどのように適応するかの研究も可能です。

心理療法としての可能性

SR(代替現実)は、ヒトの脳が現実と認識する世界を操作できるため、心的外傷後ストレス障害のような心的疾患に対する新しいタイプの心理療法としての活用が期待されています。

新しいインターフェースとしての可能性

SR(代替現実)は、VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)と異なり、現実か非現実か判別がつかない体験を実現します。
SR(代替現実)システムは、さまざまなデジタルコンテンツに連携可能で、新しいインターフェースとしての可能性を秘めてます。

SR(代替現実)によって仮想と現実があいまいになることで、新たな映像体験が生まれます。
たとえば過去を現実に思わせたり、過去と現実を重ね合わせることなどで従来とは違う表現が可能となるでしょう。

また、新しいビジネスが生まれる可能性があります。

参考:もう1つの現実を体験する「代替現実システム」を開発 | 理化学研究所
参考:Substitutional Reality (SR:代替現実)技術を用いた、新しいゲームインターフェイスの開発

まとめ

SR(代替現実)とは、「Substitutional Reality 」の頭文字をとった略語で、日本語では「代替現実」と呼ばれています。
VR(仮想現実)、AR(拡張現実)、MR(複合現実)を体験する場合ヒトは、前提としてリアルな現実ではなくバーチャルな非現実であることを認識していますが、SRを体験する場合ヒトは現実か非現実か判別がつきません。

目が覚めている間に、脳が五感を通して感じているリアルタイムの出来事を現実と認識するときや、つじつまが合わないとして現実ではない事として強制的に解釈するときには、「メタ認知」という高度認知機能が働きます。
「メタ認知」についてはわからない部分が多く、SR(代替現実)システムによってその究明の伸展が期待されています。

SR(代替現実)の活用はこれから将来に向けて大きな期待が寄せられている分野です。
「マトリックス」や「インセプション」、「トータルリコール」などの映画のなかの世界であった事前に用意しておいた過去の映像を使って、現実のシーンをこっそりと差し替えるSR(代替現実)を実現することで、新たな可能性が広がるでしょう。

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